カテゴリー: 産業用ロボット

『ロボビジネス2013』会議レポート<その2> 展示会場で気になったロボットたち

ロボビジネス2013』会期中は、隣接する展示会場で70社近いロボット・メーカー、部品メーカー、スタートアップ、関連出版社などが出展していた。

何と言っても目立ったのは、会場入り口に大きなブースを構えていたスータブル・テクノロジーズ社。この会議のゴールド・スポンサーでもあり、またここに来られない関係者にテレプレゼンス・ロボットのビームをレンタルしていたこともあり、何かと目立つ存在だった。

スータブル・テクノロジーズ社のブース。数10台のビームが会場で待機していた。

スータブル・テクノロジーズ社のブース。数10台のビームが会場で待機していた。

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バクスターのソフトウェアが2.0にアップグレード

製造現場で人と一緒に仕事ができるコー・ロボットの代表的存在、リシンク・ロボティクス社のバクスターが、バージョン2.0にソフトウェア・アップグレードされた。アップグレードは、コンピュータやスマートフォンと同様、ネット経由でダウンロードして行われる。

2.0での改良点は、スピードが速くなったことと、どんな角度からもモノをピックアップできるため、多様な動作が可能になったこと。さらに動きがより正確になり、スキャンなどができるようにモノを空中で持ち上げたまま、その位置を保つこともできる。異なった形状を見分ける機能も向上したという。

ビデオを見ると、当初よりもいろいろなタスクをこなせるようになっているのがわかる。同社では、バクスターは「これからもどんどんソフトウェアが改良されることで、投資効果がもっと上がっていく」と強調している。

しかし、このビデオでは作業員にバクスターのアームがぶつかる様子が’わざわざ収められている。ぶつかっても痛くないということだろうか。作業員をあらかじめ感知して、腕を止めてくれないのは確かのようだ。

ますます人間の近くで仕事をするようになるロボット

先だって、デンマークのユニバーサル・ロボッツ社がアメリカに支社を設けたニュースを伝えたが、同社のロボットがこんな風に使われているという記事が『テクノロジー・レビュー』に掲載されていた

サウス・カロライナ州のBMW工場で仕事をするロボット(www.technologyreview.comより)

サウス・カロライナ州のBMW工場で仕事をするロボット(www.technologyreview.comより)

場所は、サウス・カロライナ州にあるBMW工場。これまでの自動車製造工場でのロボットはパワフルで精密だったため、人間が近寄るのは危険とされてきた。そのため、最終的なアッセンブリー作業は多くはまだ人間の手に任されていた。

しかし、この工場では、ドアーに密封剤を取り付けるアッセンブリー作業をロボットが受け持っている。接着剤を塗る作業も含めれば、「毎日、ウィンブルドンの試合を数回こなしたほどの重労働」とのことだ。

BMWでは、さらに新しい可動ロボットをMIT(マサチューセッツ工科大学)の航空学および宇宙学部のジュリー・シャー教授と開発中とのことで、こちらはさらに洗練されたアッセンブリー作業をこなす上、人間の作業員に道具を渡したりするらしい。数年後に導入を計画しているという。シャー教授は、MITのコンピュータ科学および人工知能ラボ(CSAIL)のインタラクティブ・ロボティクス・グループを率いている。

同記事では、リシンク・ロボティクス社のバクスターが、現時点ではアメリカの中小規模の工場で利用され、コンベヤー上で動くものをパッケージするなどの軽作業を行っているのに対して、BMWのロボット利用はもっと重労働の製造作業に組み込まれることを目指していると、その違いを指摘している。

ホワイトハウスの『オレたちはギークだぜ』シリーズで、ロボット論議

ホワイトハウスでは、『We the Geeks』というビデオ・シリーズを放映している。「オレたちは、ギーク(テクノロジーオタク)だぜ」とでもいう意味で、ホワイトハウス内のテクノロジーおよび科学政策に関するオフィスが主催し、複数の人々が参加できるテレビ会議システム、グーグルプラス・ハングアウトを使って、いろいろなテーマで専門家が話し合うというしくみだ。

これまで取り上げられたテーマはなかなかに興味深いものばかりで、「小惑星」「21世紀的な履歴書とは」「社会貢献におけるイノベーション」「スーパーヒーローのための新素材」などがある。

8月初頭に開かれたのは「ロボット」論議。同オフィスのヴィージェイ・クマー氏(ロボティクスおよびサイバーフィジカル・システムズ部門アシスタント・ディレクター)とトム・カリル氏(テクノロジーおよびイノベーションの次席ディレクター)がモデレーターとなって、以下の人々が参加した。

・ロドニー・ブルックス(リシンク・ロボティクス会長)

・ダニエラ・ラス(MITコンピュータ科学およびAIラボ(CSAIL)のディレクター)

・マシュー・メイソン(カーネギーメロン大学(CMU)ロボティクス・インスティテュートのディレクター)

・ロビン・マーフィー(テキサスA&M大学ロボット支援による捜索および救援センターのディレクター)

・アリソン・オカムラ(スタンフォード大学コラボラティブ・ハプティクスおよびロボティクス医療ラボの主席研究員)

ジョン・グリーン(小説家、ビデオ・ブロガー)

50分足らずの話し合い中、STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学教育)に関する話題も多かったが、その他にもおもしろかった発言を以下にいくつか挙げておこう:

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『ナショナル・ジオグラフィック』誌は、ロボットやドローンを使って、野性動物を撮影

自然の風景や野生動物を、美しい写真に収めることで知られる『ナショナル・ジオグラフィック』誌は、撮影テクニックの点でも先端技術を取り入れている。最近はロボットやドローン(無人航空機)である。『ヴァージ』が詳しく伝えている

ドローンは、広大な風景や野生動物の生息を伝えるのに最近よく使われる手法だが、このカメラマン、マイケル・ニコルズ氏はタンザニアのライオンを撮影するにあたって、動物を上から見下ろすというやり方が失礼だとどうしてもがまんがならず、ついにロボットで超接近するというやり方を思いついたらしい。

「ミニタンク」と名付けられたこのロボットはリモートコントロール可能で、ノースキャロライナ州のスーパードロイド・ロボッツ社が製造したという。同社は爆弾除去ロボットの製造専門会社だという。

カメラマンのクルーは、近くに駐車した車に待機し、コンピュータ画面で画像をモニターしながら、シャッターを切った。ミニタンクは、ライオンを警戒させないようにソロソロと動き、子供ライオンがくつろいで大きなあくびをするところまで間近に接近している。ライオンのからだのシワのひとつひとつまで見えるこれらの写真は、迫力万点である。

ところで、ドローン撮影で言えば、ニュージーランドのドローン開発グループ、チーム・ブラックシープが撮影した下の画像も話題になっている。気持ちいいのどかな風景と一緒に、羊の顔の表情まで見える。技術の進歩によって、われわれが目にできるものが確かに変わってきた、と実感する。

懸命に働くロボットがこんなにいる!

『アントレプレナー』誌が、コマーシャル分野で実働するロボットを開発した8社を紹介している

8社はそれぞれ、農業、飲食サービス、環境リサーチ、リハビリ、製造、一般医療、セキュリティー、太陽エネルギーの分野向けのロボットを開発した。ロボットと聞いて想像するようなヒューマノイドなかたちはしていないが、どれも自律的に特定の役割を果たすものだ。

記事の冒頭で、カーネギーメロン大学ロボティクス・インスティテュート内のナショナル・ロボティクス・エンジニアリングセンターのディレクターであるスティーブ・ディアントニオ氏は、「ロボットの商用化は簡単ではない。真の投資リターンが実感できるような応用方法を見いださなくてはならない」と語っている。

同記事で取り上げられている8社は以下:

ブルーリバー・テクノロジー社(トラクターの背後に装着され、畑の雑草だけを見分けて除草剤をスプレーする)

ブリッゴ社(バリスタが入れてくれるコーヒーのプロセスを、ロボットで再現。高度なカスタマイズも可能)

リキッド・ロボティクス社(海上に浮かぶ海洋研究用ロボットが、海や波の観察を行う。波動から電力を得るため、半永久的に稼動する)

エスコ・バイオニクス社(5ワットという省電力型のエクソスケルトンを開発。軍事用のほか、膝や腰などの身体能力を失った障害者、高齢者の歩行補助となる)

リシンク・ロボティクス社(製造現場で単純作業を行うロボット、バクスターを開発。作業工程は、バクスターのアームを動かして入力する)

インタッチ・ヘルス社(遠隔医療のためのテレプレゼンス・ロボット。通常の病院でも医師の回診に利用できる)

ロボテクス社(戦場でのサーベイランスに利用できるリモートコントロール型ロボット。ロボットアームを付けて爆弾除去などに役立てることが可能)

キューボティクス社(最大1200個のソーラーパネルの向きを40分ごとに変えるロボットを開発。ソーラーパネルのメンテナンスのためにデータも収集する)

ブリッゴ社のロボティク・バリスタ(同社サイトより0

ブリッゴ社のロボティク・バリスタ(www.briggo.comより)

「日本人はロボットのアーリー・アダプターになる」。SRIロボティクス・プログラム・ディレクター リチャード・マホーニー氏インタビュー

SRI(スタンフォード・リサーチインスティテュート)インターナショナルは、政府機関や企業から受託して、先端技術に関わる研究開発やそのサポートを行う非営利組織である。シリコンバレーのメンロパーク市に拠点を持ち、研究開発内容は生物科学、医学、宇宙工学、素材産業、情報システム、コンピュータ科学、環境科学など多岐にわたっている。

ことに、ロボット開発の歴史は長く、現在もエンジニアリングR&D部門のロボティクス・プログラムに引き継がれている。有名な手術ロボットであるダ・ヴィンチが最初に開発されたのもここで、インテューイティブ・サージカル社は50社以上もあるSRIのスピンアウトのひとつである。

シリコンバレーのロボット業界の中心人物のひとり、SRIロボティクス・プログラムのディレクター、リチャード・マホーニー氏に、ロボニュースがインタビューした。

SRIロボティクス・プログラムのディレクター リチャード(リッチ)・マホーニー氏

SRIロボティクス・プログラムのディレクター リチャード(リッチ)・マホーニー氏

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現代重工業が開発した、重さ15キロの溶接ロボット

韓国の現代重工業が、造船用の小型溶接ロボットを開発したという。

アームが折り畳まれた状態でのサイズは50x50x15センチで、人間が入り込めない狭いところでも作業ができる。またジョイントは6つあり、作業員が行うほとんどの仕事を同程度の時間で遂行できるという。

ソフトウェア次第で鉄鋼の切断、蒸気噴出、塗料の塗布などにも応用可能。15キロと軽量なため、磁石で鋼材の天井や壁面に付着させることも可能。

Robot - Hyundai

プレスリリースはここに。

「ロボットは職を奪わない」と、ジョージア工科大学ヘンリック・クリステンセン教授

ロボット研究の第一人者のひとり、ジョージア工科大学のヘンリック・クリステンセン教授が、『IEEE Spectrum』誌のポッドキャストのインタビューに応えて、ロボット技術が発達することによってアメリカの職を奪うことはないという、楽観的な見方を伝えている。

ジョージア工科大学のヘンリック・クリステンセン教授

ジョージア工科大学のヘンリック・クリステンセン教授

 

中で触れられているいくつかのポイントは:

・コンピュータの発展で起こったように、ロボット技術によってパラダイム変換が起こり、新しい職が生み出される可能性は高い。

・ロボットによって置き換えられる仕事もあるが、(ロボット技術の導入によって)アウトソースされていた仕事が戻ってきた際には、ひとつの雇用に対して、ロジスティック管理などの分野で1.3人分の雇用が生み出される。

・ジョージア州南部に製造工場をつくった韓国の自動車メーカーKIAの挑戦は、マシーンのオペレーターを確保することだった。つまり、技能のいらない職から、特殊技能が必要な人材に需要が移っている。今後それを支えるためのSTEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)の分野に、十分な数の学生が関心を持っているかどうかが問題。

・3Dプリンティングは、アジャイル(少量、フレキシブル、迅速な)生産を可能にするゲームチェンジャーとなる。在庫コストが不要で材料の利用にも無駄が出ないため、製造コストを下げ、それによって安い製品を大量に生産をすることができるようになる。ここでは製造機械やツールに携わっていた雇用は不要になるが、その代わり今日では想像もできないような製品を考案するような、まったく新しい産業が生まれるはずだ。短期的には雇用は減るが、長期的には雇用を生み出すもととなる。

・われわれは短期的な儲けに目を奪われがちで、また経済や国の財政、雇用などの問題で不安に陥っている。これは、長期的なビジョンを持って、将来どんな機会が待っているのかに対してはっきりした見通しが持てないから起こっていることだ。

2013年版『米ロボット開発のロードマップ』

やや前の話になるが、さる3月20日、アメリカのロボット研究界と産業界の代表者たちがロボット研究、産業の現状と今後15年を見通したロードマップを作成し、連邦議会のロボット推進議員連盟に対してブリーフィングを行っている。

その報告書『2013年度版 米ロボットのロードマップ: インターネットからロボティックスへ(A Roadmap for U.S. Robotics:  From Internet to Robotics)』は、ここからダウンロードできる。

Robot roadmap

このロードマップは2009年に最初に作成され、今回はそれに改訂を加えたもの。アメリカのロボット開発が世界最先端の地位を保ち続け、国内の経済発展に貢献するよう持続的なイノベーションのパイプラインを構築し、国家のリソースを有効に配置することを目的とした提言書という性質のものだ。

オバマ大統領による国家ロボット・イニシャティブ(NRI)の設立は、2009年版のロードマップ提出に端を発している。今回のロードマップの作成には、NRIの補助金を受けて活動する産学組織ロボティックスVO(ロボティックス・バーチャルオーガニゼーション)があたった。

内容は、製造、健康・医療、サービス、宇宙開発、軍事の5分野に分かれている。まだ細かく目を通していないが、要約とされたページに興味深い記述がいくつかある。

・ロボット技術は、次の10年間にコンピュータ技術と同様にユビキタスになると予測され、国の未来を変える。

・フレキシブルな製造にロボットを活用することで、低賃金な他国へのアウトソーシングにも競合する生産システムを確立することは可能。

・ロボット技術は、短期的には雇用促進と生産性向上、工場での安全性向上に貢献する。国内での雇用を加速化させ、長期的には高齢化社会における生活の質を高める。

もっとも関心を引かれたのは、「各分野で5、10、15年の短期、長期におけるロボット技術の応用をとらえ、そこで求められる重要な機能性、そしてそうした機能性を可能にするために必要とされるテクノロジーを洗い出した」という部分。

現状から将来までのロードマップを俯瞰して、随所で必要な機能技術をピンポイントするとは、明快な合言葉を掲げるようなもの。これに刺激されて、多くのスタートアップも生まれてくることだろう。


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