カテゴリー: ロボット研究

3Dプリンターでつくった「聞こえる」耳

プリンストン大学の研究者たちが、細胞組織を材料として用い、汎用3Dプリンティンターでバイオニック(生体工学的)耳を生み出した。

Photo by Frank Wojciechowski

この耳は、エレクトロニクスと細胞とを効率的に統合させる方法を探究する中で出てきたもの。これまでは、二次元のエレクトロニクス要素と細胞の間で工学的、熱学的な干渉が起こっていたが、2つの要素を最初から織り込むようにして生体を生み出し、それを生長させるというアプローチによって問題が解決できたという。

材料として用いたのは、細胞組織とエレクトロニクス要素のナノ粒子で、コイル型のアンテナを軟骨に統合させるために細胞培養液を加えた。人間が聞こえる以上のマイクロ波を聞き取れるという。

研究者たちは、こうした製造手法を導入することで、人間の身体的能力をオーグメント(補強する)人工器官を生み出せる可能性があると見ている。

研究のプレスリリースは、ここに。

『NanoLetters』誌に掲載された論文は、ここに。

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「ロボビー(みつばちロボット)」の初めての制御飛行

このビデオの左下に映っている銀色のクォーター(25セント硬貨)は、直径23ミリほどのサイズ。この昆虫のようなロボット「ロボビー(RoboBee)」の小ささをわかっていただけるだろうか。

みつばちというよりは、極小トンボのようなこのロボビーは、ハーバード大学のワイス研究所工学応用科学部(SEAS)の共同研究で実現されたもの。ワイス研究所は、正式名を「Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering」といい、生物の構造やしくみから発想を得たエンジニアリングを研究分野としている。

このロボビーは、10数年の研究の集大成とも言えるプロジェクトで、飛行中に一カ所に停止したり、左右に移動したりできる。画期的な製造方法も共に提示されている。それによると、レーザーカットされたカーボンファイバーに柔らかな素材の層を挟み、それをまるでポップアップ絵本を開くようにして立ち上げれば、微細な三次元構造体を作ることができるようだ。下のビデオで詳しく説明されている。

羽は毎秒120回羽ばたき、目にはまるで止まっているようにすら見える。羽を動かす筋肉の部分には、電場をかけると伸縮するセラミック素材のピエゾ電気アクチュエーターが用いられた。電気は細いケーブルを通して外部から供給されている。バランスを保つために、現位置と目的位置の差をリアルタイムで計測しながら、両方の羽を個別に作動させるようだ。

環境モニタリングや救援支援、農業での受粉作業などでの利用が考えられているというが、このポップアップ製造方式も超小型の医療機器などへの応用も見込まれるという。

プレスリリースは、ここに。『サイエンス』誌に掲載された論文は、ここ(要登録)。

2013年版『米ロボット開発のロードマップ』

やや前の話になるが、さる3月20日、アメリカのロボット研究界と産業界の代表者たちがロボット研究、産業の現状と今後15年を見通したロードマップを作成し、連邦議会のロボット推進議員連盟に対してブリーフィングを行っている。

その報告書『2013年度版 米ロボットのロードマップ: インターネットからロボティックスへ(A Roadmap for U.S. Robotics:  From Internet to Robotics)』は、ここからダウンロードできる。

Robot roadmap

このロードマップは2009年に最初に作成され、今回はそれに改訂を加えたもの。アメリカのロボット開発が世界最先端の地位を保ち続け、国内の経済発展に貢献するよう持続的なイノベーションのパイプラインを構築し、国家のリソースを有効に配置することを目的とした提言書という性質のものだ。

オバマ大統領による国家ロボット・イニシャティブ(NRI)の設立は、2009年版のロードマップ提出に端を発している。今回のロードマップの作成には、NRIの補助金を受けて活動する産学組織ロボティックスVO(ロボティックス・バーチャルオーガニゼーション)があたった。

内容は、製造、健康・医療、サービス、宇宙開発、軍事の5分野に分かれている。まだ細かく目を通していないが、要約とされたページに興味深い記述がいくつかある。

・ロボット技術は、次の10年間にコンピュータ技術と同様にユビキタスになると予測され、国の未来を変える。

・フレキシブルな製造にロボットを活用することで、低賃金な他国へのアウトソーシングにも競合する生産システムを確立することは可能。

・ロボット技術は、短期的には雇用促進と生産性向上、工場での安全性向上に貢献する。国内での雇用を加速化させ、長期的には高齢化社会における生活の質を高める。

もっとも関心を引かれたのは、「各分野で5、10、15年の短期、長期におけるロボット技術の応用をとらえ、そこで求められる重要な機能性、そしてそうした機能性を可能にするために必要とされるテクノロジーを洗い出した」という部分。

現状から将来までのロードマップを俯瞰して、随所で必要な機能技術をピンポイントするとは、明快な合言葉を掲げるようなもの。これに刺激されて、多くのスタートアップも生まれてくることだろう。


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