「あの動きは、最初から目論んだことです」。Jibo(ジーボ)生みの親、シンシア・ブラジル準教授インタビュー その(1)
「世界で初めての家庭用ロボット」を謳うJibo(ジーボ)。あと10日を残すクラウド・ファンディングでは、3150人のサポーターがつき、目標額の15倍近い144万5500ドル(約1億4450万円)が集まっている。ユーザーとことばでやりとりし、ユーザーの生活を助けてくれるロボットが、499ドル(約5万円)で予約販売中だ(国外発送には50ドルを追加)。
その開発者であり、マサチューセッツ工科大学メディアラボで教壇に立ち、そして新しいマイジーボ社のCEOであるシンシア・ブラジル准教授にインタビューした。ジーボの開発の狙い、今後の計画について聞いた。
Q. Jibo(ジーボ)について伺う前に、日本ではソフトバンクが発表したPepper(ペッパー)が話題を呼んでいます。ペッパーについてはどんな印象を持ちましたか?
A. 私は、まだビデオや発表資料しか見ていません。ただ、ペッパーを作ったアルデバラン社の別のロボットであるNao(ナオ)は、われわれの研究ではあまり利用していません。理由は、表情が乏しくソーシャル・ロボットとのやりとりの体験を提供しないからです。実際にどんなことができるのかは、まだわかりません。しかし、2000ドルという価格には、回りの関係者と同様に驚いています。なぜそんなに安くできたのか。エンジニアリングも美しく仕上げられている。また、1990年代からパイオニアとしてソーシャル・ロボットを研究してきた自分としては、こうした時代がやってきたことをとても嬉しく思っています。ロボット業界もテクノロジー業界も成熟したからです。インテルも含めて大企業がソーシャル・ロボットに関心を持ち始めた。アイデアが現実へと移る時代になったのです。
Q. さて、ジーボはクラウド・ファンディングで目標額10万ドル(約1000万円)の10倍以上も調達し(8月5日現在では15倍に近い144万5500ドル=約1億4450万円)、大きな話題になっています。ジーボの開発は、いつ始められたのでしょうか。
A. 会社を作ったのは2012年末ですが、ジーボのプロトタイプは、もういくつも作ってきました。最初のプロトタイプは、今のジーボとは比べものにならないくらい違っています。おもしろい動き方やコアのスキルは変わっていないものの、簡単に手に入るパーツを組み合わせてともかく組み立ててみたからです。技術上のスペックや利用方法を想定した上での機能性については、これで検討を重ねました。
Q. ビデオに登場するジーボはあまりにうまくできていて、CGではないのかという声もありますが……。
A. (笑)そんなことはありません。CG制作など依頼したら、何10万ドルもかかりますよ。昨年末の時点で、ビデオで見せていることはすべてできました。その後、モバイル・コンピューティング業界の利点を生かしてパーツをもっと安くできないかを検討する中で、インダストリアル・デザインも変更しています。より洗練されたかたちにしたので、その分製造もシンプルになる。実際の製品は、ビデオに出ているよりもやや小さく、ほっそりしたものになる予定です。
Q. これまでMITメディアラボでの研究では、キスメットを始め多様なロボットを開発してこられました。ジーボの開発にあたって、そこから何を拾って何を落とそうと考えましたか。
A. 研究では、フワフワした毛並みのキスメットや、体重管理を助けてくれるロボットなど、いろいろなかたちと機能性を持つロボットを研究しました。ジーボは、それらの上位にあるメタ・アイデアから生まれたと言えます。これまでの研究におけるアイデアは、現実世界に出てくるものではありませんでした。しかし、ジーボはそれらを洗練した抽象的なかたちにまとめ、それでいていろいろなことができ、フレキシブルであるロボットにしようと考えたのです。抽象的なかたちであっても、写真を撮る時にはスクリーンに目が表示されるなど、その時の機能によって変身できる。キスメットのような単一機能しかない今までのロボットでは、そうしたフレキシブルさが実現できませんでした。ちょうどいいレベルの抽象性を備えながら、ユーザーとインタラクトする際には機能に合わせて変身可能という線を狙ったのです。
Q. 抽象的なかたちは、最初から目論んだことですか。
A. そうです。またあの特殊な動きも最初から考えていたことです。日本ではマンガが人気ですが、ジーボの動きはマンガの原則に学んだものと言えます。アクション・キャラクターは、ポーズを決める時には強い印象を残す。人間の動きをまねつつ、それを推し進めて誇張するのです。そこを達成すれば、どんなことでも表現できる。マンガは二次元でのことですが、ピクサーの『カーズ』のようにも動かせます。ジーボの力強い動きは、メカニカルに実現されています。
Q. 500ドルを切る価格(499ドル)も最初から設定していたものですか。
A. そうです。多くの人々に受け入れられる価格にしたかったのです。500ドルは、ハイエンドのタブレットと同じくらいで、ラップトップよりは安いという価格です。今や多くのタブレットが売れている時代なので、ジーボもみんなの家に行って欲しい。アメリカの人々はロボットを受け入れる心の準備ができていますから、適確な機能と適確な価格を求めたのです。
Q. ディベロッパーたちにも、ジーボの回りにコミュニティーを作ってもらいたいということですね。
A. ディベロッパーはこれまでもモバイルやIoT(インターネット・オブ・シングズ)の開発に携わってきましたが、今度はモノとして動くソーシャル・ロボットに関わってもらいたい。そのためにJavaスクリプトによるSDKを発行しました。コアなロボット開発者だけでなく、モバイル・アプリのディベロッパーにも参加して欲しいと考えています。
Q. スクリーンが円形で内部は曲面に見えますが、中はどうなっているのでしょうか。
A. 丸いのは表面だけで、中には標準型の長方形のスクリーンが搭載されています。価格を抑えるためです。ですから、モバイル・アプリを行ってきたディベロッパーも、これまでと似たSDKで開発ができる。新しい機能性が付加されていますから、それを大いに利用して、ソーシャル・ロボットの特性にふさわしい開発をして欲しいと願っています。
Q. クラウド・ファンディングのインディーゴーゴーで、75万ドル(約7500万円)を達成した時に、ジーボには「ムーブトン(moveton)」の無料セットという達成祝いのオマケが加わりました。このムーブトンとは何ですか。
A. エモーティコン(emoticon=顔文字)をご存知でしょう。それがモノによって表現されることです。ジーボならば、スクリーン上のメッセージやアニメ、音、動きで感情を表現します。ジーボが発売された後は、年末になるとホリデー・シーズン用のムーブトンが発表されるといったようなことをやりたい。また、一般向けのホーム・エディションにもツールキットが搭載されていますから、ユーザーが自分たちでムーブトンを作ったりカスタマイズしたりすることも可能です。そんなこともあって、ジーボは、親たちからは子供がプログラムを学べるロボットでもあると期待されています。
(下のビデオは、開発者に向けてメッセージするマイジーボ社エンジニアリング担当副社長のアンディー・アトキンズ氏。これによると数ヶ月以内にディベロッパー・フォーラムを開設するとのこと)
(その2に続く)