「無人航空機は今やたくさんありますから、他とは違ったものにしなければなりません」。サイファイ・ワークス社創業者へレン・グレイナー氏 インタビュー その<1>
ヘレン・グレイナー氏は2008年、新型の無人航空機(UAV)を開発するサイファイ・ワークス社を起業した。同氏は、掃除ロボット、ルンバを生んだアイロボット社の共同創設者として知られ、ロドニー・ブルックス、コリン・アングル両氏と共に、ロボット技術が一般消費者向けの製品として浸透していく経緯を見守った人物である。
ボストンのサイファイ・ワークス社を訪ね、同社の技術、そして起業の体験について話を聞いた。(尚、インタビューは2013年夏に行われている。同社はその後700万ドルのシリーズAの投資を受けた。)
Q. 無人飛行するEASEもPARCも、電力と通信を供給するフィラメントに接続されていることがサイファイ・ワークスのUAVの特徴ですが、最初にフィラメントのアイデアがあったのですか?
A. いいえ。最初は、アイロボット社に在籍していた頃に関わっていたパックボットから考えつきました。パックボットは6500台も売れたロボットで、パワフルな可動ロボットです。しかし、そんなパックボットも進めない地面があったり、入れない場所があったりする。そこで、地上走行車ではなく無人航空機(UAV)であればいいと思ったのです。ただ、普通のUAVは搭載できる電力が限られているので、現実的なミッションは担えない。どうやって電力を外部から供給すればいいかと考えている時に、思いついたのがフィラメントです。フィラメントならば通信の問題も解決でき、さらにジャミング(電波妨害)も回避できるとわかったのです。
Q. フィラメントは特製ですか。
A. そうです。2本のワイアーをねじり合わせて作られていて、高出力と高速通信の両方が処理できます。1000フィート(305メートル)まで伸びますが、これは高度にすると目に見えないほど高いんです。
Q. EASEは移動し、PARCは上昇して停止するという違いですね。
A. そうです。EASEは屋内にも入って行きます。その際、GPSの代わりにオーガニック・センサーを用いて位置を安定させる。また形状は、回転するプロペラのようなものをなくしました。モノや人に当たるのを避けるためです。PARCは、上下するだけですが、長時間上空に留まることができる。従って、長時間にわたって広い範囲をサーベイランスする「目」の役割が求められる際に役立ちます。また、地上の2点の通信をリレーすることも可能です。
Q. 用途は、軍事ですね。
A. そうとは限りません。当初は軍用としているのは、軍隊がアーリー・アダプターだからです。また、開発のコストも調達しなければなりませんから。軍ならばテスト施設も評価方法もあります。それに、何と言っても、このようなUAVのニーズがあります。しかし、その先は商用も狙っています。たとえば、施設を警備するガードマンが、建物全体を見回らなくても、空にPARCを飛ばしておけばモニターができる。そして、まだそこまで手が回りませんが、地上に別のロボットがいて、PARCが何か異常を発見すると、地上のロボットが確認に行くということもできるのではないでしょうか。橋の点検のような目的でも使えます。要は、すぐに空に飛ばし、長い間一点に留まっていられるようなシステムが必要ならば、PARCが役に立つ。EASEは、正確に目的地に向かう。今は遠隔操作する必要がありますが、いずれ1回入力すれば、あとは自律的に飛行していくようなしくみにしたいです。
Q. 非常に特徴のあるUAVですね。
A. UAVは今やたくさんありますから、他とは違ったものにすることが必要だと思いました。
Q. EASEにしてもPARCにしても、こういう用途があるというニーズはどのようにして調べたのですか。
A. 危険な状況は何かを考えました。ロボットはそのためにあるのですから。そうして、警察、軍隊、爆発物除去班、救援救助だなと思った。けれども、この技術が利用できる他のマーケットにはどんなものがあるのかはまだわかりません。長時間飛行を要するUAV の運用が求められるのはどこか、です。外部から電力を供給するので、UAVよりも多少多くの重量には耐えられます。
Q. カメラやビデオの他には、サーベイランス用機器は何が搭載できるのでしょうか。
A. 化学品探知センサーや放射線センサー、通信機器、赤外線、夜間ビジョン、熱センサーなど、さまざまな探知機器の搭載が可能です。
Q. ところで、これまでいらしたアイロボット社では、軍事用、消費者向けといろいろなロボットがあり、多様な技術があったと思います。そうした環境が懐かしくなりませんか。
A. 私は、これまでとは違ったことをするためにサイファイ・ワーク社を始めました。これまでやっていたのは地上ロボットでしたが、今は飛行ロボットに集中しています。「学ぶことのない日は無駄な1日である」と言いますが、今は日々新しいことを学んでいます。それに、アイロボット社で開発していたアルゴリズム、SLAM、センサー、UIなどは、飛行ロボットにも共通しています。特に、私はいずれ人がいるようなところでも、UAVを使えるようにしたいと思っているので、共通点はたくさんあります。
Q. 人がいるところということは、飛行と地上両用のロボットということでしょうか。
A. そこまでは考えていませんが、もし作るとしたら、飛行ロボットを地上でも使えるようにするというやり方が正しいでしょう。地上ロボットを飛ばすのは大変ですから。ロボット開発者はみな複雑なものをクールだと考えがちで、私も若い頃はそんな傾向がありました。けれども本来は、シンプルさを極めたものをまず作り、そこから複雑さを足していくというのがいいアプローチです。
Q. 屋内での利用も考えていますか。
A. UAVが環境を操作する、つまりドアノブを空けたりするようなこともあるかもしれません。また、この部屋のような室内で飛ばすということも考えられる。普通のロボットならば、家具などの障害物がたくさんあるところを歩かせるのは大変ですが、UAVならば脚も不要で、室内で移動ができる。用途は、モノを運んだり警備をしたりなどが考えられます。
Q. 創業する際には、どんなスタッフを集めたのですか。
A. アイロボット社の出身者も少なからずいますし、あとはUAV業界の出身者、大学関係者です。また警察の専門家もいます。軍事システムの副社長は、アイロボット社出身者で、アフガニスタンに最初にパックボットを運んで、洞窟を偵察させたスタッフです。
その<2>に続く。