ギル・プラット氏、「レベル5の自動走行車は、どのメーカーにとってもまだまだ先の話」
『IEEE スペクトラム』がトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)のギル・プラットCEO(最高経営責任者) とのインタビューを掲載している。今年初めのCES (コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)時に行われたもので、自動走行車に関する一般の誤解とTRIのアプローチを説明している。
このインタビューは、CESでのプラット氏のプレス会見でのビデオ(下)も参考にして読まれるといいだろう。
最近はことに、自動走行車がもうそこまで実現可能になっているというニュースがたくさんある。実際、テスラなどハイウェイ上で自動走行モードにできる機能も広く知られるようになり、自動車メーカー各社が公道で自動走行車の実験を繰り返している様子も伝えられる。それによって、人々の期待が高まっていることにプラット氏は警告を発している。「レベル5の自動走行技術は、まだまだ先の話」ということだ。
同氏は、CESでSAEインターナショナルによる最新の自動走行レベル基準を詳しく説明している。その中で、TRI が現在焦点を充てているのはレベル2(ドライバーは常に道路をモニターし、瞬時にハンドルを操作できる状態)でのガーディアン(守護神)技術と見られる。
TRI では、ガーディアン技術とショファー(運転手)技術を並行して研究・開発中だ。ガーディアンは人間ドライバーの安全性を高めるための技術で、ショファーは自動走行技術である。認識、動作計画ソフトウェアは共通のものになる。
ガーディアン技術の初期のものは自動緊急ブレーキ、アンチロック・ブレーキ、自動安定性制御などだが、現在研究しているのは人間と機械の状況認識力を統合するようなアプローチだ。つまり、機械が先に起こるインシデントを予測して、音やサインで警告を発し、スピードやステアリングなどの自動制御によって事故回避レスポンスを一時的に発動する。
また、長時間にわたって人間の状況認識力を鈍らせないために、同社AIの「Yui(ユイ)」が、人間ドライバーに会話をするなどの簡単なタスクを与えることも計画中だ。簡単なタスクとは、たとえば長距離トラックのドライバーが二方向ラジオを利用したり、スピード違反メーターの位置をモニターしたりすることによって運転時の注意力を保っている、それに類した「何か」のようだ。
『IEEEスペクトラム』でのプラット氏の話の内容は、「すでに分かっている道路でも、天候、交通事情などによっていつも同じとは限らない」、「AIは完全ではない」というものだ。TRIの注意深いアプローチの理由がわかる。
また、クラウド・ロボティクス技術によって、自動走行車が事故を起こしてもそのログが記録されることで、今後同様の事故を防げることは事実だが、機械学習、深層学習技術の難点はなぜその間違いにいたったかが説明できない点だという。まさにその点を探るために、TRIではマサチューセッツ工科大学(MIT)と『The Car Can Explain!』という共同研究を行っているという。
実際には、10 兆マイル級の路上テストによるインプットが必要になるが、それでも十分でなく、足りない分はシミュレーションで補おうとするが、それでも万全ではないという。他の車に乗る人間ドライバーの予測不能にも見える行動をどうシミュレートするかといったことも課題のようだ。
さらにインタビューでは、コンピュータ・ハードウェアを人間の脳並みに電力面で効率化することはできないかという話題にも触れている。
TRIは創設から1年が経過した。CESのビデオによると、すでに100人以上の研究者を雇い、トヨタからも50人が移籍したという。今年も100人を雇用する予定という。また、パロアルトに新たなシミュレーション技術を導入した施設をオープンする計画とのこと。
下は、CES 2017 でのビデオ。プラット氏登場は、14:40ころ。