インテューイティブ・サージカル社の苦境

インテューイティブ・サージカル社は、ロボット会社のホープとされてきた。

ロボット研究からスピンアウトして創設された同社は、手術ロボット「ダヴィンチ」を開発。その非侵襲的な利点が多くの病院で認められて、利用が広まっていたのだ。ダヴィンチが用いられる手術の種類も前立腺がんから、子宮がん、胆嚢摘出、子宮摘出などに拡大していった。

ダヴィンチの値段は1台あたり230万ドルと高価だが、同社の売上は10年間に1500%増え、株価は3000%高まった。そんな同社は、ロボット業界ではビジネス・モデルの成功例として、そして医療業界では先端的なテクノロジーの導入を支える例としてよく取り上げられる存在だったのだ。

ところが、同社は昨年からさまざまな障害に直面している。

インテューイティブ・サージカル社のサイトより

手術ロボット、ダヴィンチ(http://www.intuitivesurgical.com/より)

ひとつは訴訟問題だ。

同社に対しては、昨年春から複数の訴訟が起こされている。最初の訴訟は、ダヴィンチを用いた前立腺がん手術を受けた患者がその後死亡したのは、十分な訓練を受けなかった医師が手術ロボットを使用したため。インテューイティブ・サージカル社は、マーケティングを優先して医師に適切な訓練を施さず、医療を顧みなかったといった内容だ。

これについては、裁判の結果、患者が別の既往症をいくつも抱えており、インテューイティブ側には落ち度はなかったと判断が下された。

しかし、同様の訴訟はその後も続き、同社の2013年のアニュアル・レポートによると、同社は昨年末時点で76件の個人訴訟の被告となっており、さらに集団訴訟もそれに加わっているようだ。

もちろん、訴訟大国のアメリカのことなので、賠償金目当ての言われのない訴えもその中に含まれることは十分考えられる。これらの中には、後に取り下げられたり、裁判所で却下となったりするケースも少なからずあるだろう。だが、こうした訴訟が企業イメージを下げ、同社に多くの重荷を背負わせていることは確かだ。

これとは別に、ダヴィンチの有効性を疑問視するような調査結果もいくつか出された。

コロンビア大学が、子宮摘出手術を受けた約26万5000人の患者を対象に、コストや術後の入院期間などを調べた調査では、ダヴィンチによる手術は、2日以上入院を続ける患者を弱冠少なくするものの、合併症を起こす率は5%と変わらず、またコストも高いということがわかったという。

同様の調査は他にも数件ある。さらに、インテューイティブ・サージカル社がダヴィンチ手術によって問題が出たケースを迅速にFDA(連邦食品医薬品局)へ届けていなかったという疑いも持たれている。

インテューイティブ・サージカル社も反論の中で、第三者による調査結果を発表している(http://www.intuitivesurgical.com/より)

インテューイティブ・サージカル社も反論の中で、第三者による調査結果を発表している。前立腺切除手術では、ロボット手術による合併症発症率は、経験数によって減っていくという(http://www.intuitivesurgical.com/より)

同社はまた、株主に対してダヴィンチの安全性に関する情報を十分に開示しなかったという集団訴訟も起こされている。加えて昨年は、2回にわたって製品のリコールを行わなければならなかった。アームが停止する、あるいは針が脱落するといった問題が見られたようだ。

上記のような状況の中で、ダヴィンチの売上数は下落した。2013年は546台を売り上げたが、これは2012年の620台から12%の減少。サービス料も含めた売上は、2013年の22億6510万ドルは、前年度の21億7880万ドルから増えたとは言え、それまでの高い成長率と比べると微増でしかない。同社は、ダヴィンチを利用した施術数は、前年と比較して16%増えたとしている。

専門家の間でも、ダヴィンチやロボット手術に対する評価はいろいろに分かれている。問題は、ロボット技術と医師の技能、そして利用される症例との関連性が、まだ明確にはつかめていないことだろう。

ジョン・ホプキンス大学のマーティン・マカリー医師は次のように述べている。「ロボット手術の未来は明るいが、医師と機械のどちらがエラーを起こしたのかを判断するのは、まだグレーのエリアだ。ロボットを利用する有益性は一様でなく、頭部や頸部の手術には有効でも、胆嚢摘出手術では従来の腹腔鏡手術と比べた大きな違いはない」。

ダヴィンチとインテューイティブ・サージカル社が抱えている問題は、新しい技術の浸透の方法や受容という面で、いずれ多くのロボット会社が直面する挑戦かもしれない。

参考記事は:ここここここここここ

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