<イベント・レポート> 家事ロボットはいつ来るのか?

去る3月10日、サンフランシスコのコモンウェルス・クラブで、『ロージーはまだ来ないの? パーソナル・ロボットの現状』というパネル・ディスカッションが開かれた。これは、同クラブで開かれている「21世紀のロボティクス・シリーズ」のひとつで、現在のロボット技術をさまざまな観点から話し合おうというものだ。

タイトルのロージーは、1960年代に放映が始まったテレビ漫画『ジェットソンズ』に登場した家事ロボット。それ以来、人々はロージーが来る日を待ちわびているというのに、一体いつになったらやってくるのだ、というのが、このパネル・ディスカッションのテーマだ。ポイントとなる発言を紹介しておこう。

パネル・ディスカッションの様子。左からアッカーマン氏、アビール氏、ワイズ氏、オーゲンブラウン氏

パネル・ディスカッションの様子。左からアッカーマン氏、アビール氏、ワイズ氏、オーゲンブラウン氏

参加者は以下:

・メロニー・ワイズ(アンバウンデッド・ロボティクス社共同創設者、CEO)

・ジョー・オーゲンブラウン(ニート・ロボティクス社創設者)

ピーター・アビール(カリフォルニア大学バークレー校助教授)

・(司会)イヴァン・アッカーマン(『IEEEスペクトラム』誌シニア・ライター)

Q. 家事ロボットと聞くと、何を考えますか。

オーゲンブラウン: 何か感情的なつながりが持てるもの。

ワイズ: ロボットという呼び方には、イメージ上の問題がありますね。キオスクはロボット・チケット発行機だし、食器洗い機はロボット食洗機です。だから、もうロボット技術はたくさんある。車がいい例で、駐車アシスタントをする車もすでにロボット化していますが、昔と同じ自動車のかたちをしていて、わざわざロボットとは呼ばない。自動化されているものは、すべてロボットだと思います。

アビール: 家事ロボットが、特定の機能を持つ機械になるのか、それともいろいろな機能を果たすロボットになるのか、どちらが先に実現するのかによりますね。ただ、ロボット開発において過去5〜10年の間に起こった大きな変化は、すべてをゼロから作り上げなくてよくなったことです。ROSのようなオープンソース・ソフトが生まれて、他の人が書いたコードを利用できるようになった。またハードウェアでもPR2のようにすぐに動くロボットがある。動きのプランニングの方法もどんどん改良されている。人間のやり方をまねて、それを学習させるという方法もあるのです。ただ、われわれのラボでは、洗濯物を畳むロボットを開発していますが、形のくずれたモノをロボットが認識するといったことは、まだまだ難しい。

Q. ロボットには製造コストの問題もありますね。

ワイズ: 2008年にウィロー・ガレージでPR2の開発が始まった時には、ハードウェアのプラットフォームを作るという大きなゴールがありました。結局作り上げたものは40万ドルにもなってしまった。一方、アンバウンデッド・ロボティクスのUBR-1は、年間10万台の量産ができるようなものとして考え、人気のあるアームを中心に考えました。工場や倉庫などでの軽作業を行うという想定です。それで、値段は3万5000〜5万ドルに抑えることができました。しかし、家事ロボットと言った際に、一体何が求められているのかがキーです。洗濯や皿洗いなどならば、ひょっとすると2フィートも移動しないかもしれない。そうすると、なぜサムソンのような会社がロボットを作れないのかと思いますね。

オーゲンブラウン: スタンフォード大学の大学院生だったころに、掃除ロボットにLidarスキャナーをつけたいと思いましたが、その頃いいものは5000ドルもしました。ところが今や25ドルで買える。つまり、ロボット部品だから高いのではなく、他と同じく需要があれば下がっていくのです。ニートの掃除ロボットは、SLAM技術を量産製品につけた例です。これは、15年前にはできなかった。洗濯物を畳むロボットにも、そうした技術を用いたいものですが、洗濯物の角を見つけてそれを合わせるという作業は大変難しい。構造化されていない問題の方が解決が困難という例です。

アビール: 今はデータを保存するコストが安くなっています。だから、人間のデモをデータ化して保存し、インデキシングして、そこから特定のタスクをロボットが学べるようにすることが可能です。似たような動作ができれば、そこから少し形を変えることもできる。ただ、やはり重要なのは「手伝って欲しい」と言った時に何をやってもらいたいのか。何でもできるロボットは、まだ可能ではありませんから。

ワイズ: ロボットが家庭に入ってくるのにも時間軸がある。たとえば、掃除ロボットのルンバも、今は掃除の前にルンバが動きやすくなるよう部屋を整える必要があります。洗濯物を畳むロボットならば、家のテーブルの上は全部グリーンにしなければ、モノが認識できないでしょう。われわれが住んでいる環境をロボットに説明するのは、非常に難しいのです。

オーゲンブラウン: 今は1件の家に39のマイクロ・プロセッサーがあると言われます。これは過去25年以上にわたって、セミコンダクター産業が進展してきたおかげです。それと同じような投資がロボットにも行われれば、事態は変わってくる。ロボット産業は今始まったばかりで、まだ先がよく見えません。しかし次の世代には大きく変わっているはずです。今は研究でしかない洗濯物を畳むロボットも、実は技術的には90%まで到達しているのではないでしょうか。

Q. 今後5〜10年の間に家庭用ロボットはどうなっていくと思いますか。

オーゲンブラウン: 私は1930年代に建てられた家に住んでいますが、既存の物理的インフラはそう簡単には変わりません。ロボットはこうした中に入り込んでこなければならないのです。今は洗濯機のあるところに、ロボットがいるようになる。私は、時々電子レンジのようなサイズのロボットがあって、これにトマトを入れるとスライスしてくれるといったことが起こるのではないかと思っています。つまり、そういう埋め込みデバイスという下の方向からの進展と、完成したロボットという上からの発展の両方が起こる。コンピュータもそうでした。マイクロ・プロセッサーを埋め込んだデバイスと、コンピュータという完結した製品が両方発展してきた。

ワイズ: 価格に対してどんな価値を提供してくれるのか、という問題がついてまわるでしょう。車と同じくらいの値段なら出せるとして、それが何をしてくたら納得がいくのか。UBR-1のようなロボットが家にいてもいいですが、どんな仕事をするのかですね。もっと売れてソフトウェアが開発されれば、いろいろできるようになると思いますが……。ただ、ソリューションを求めるのならば、ロボット的なかたちは理想的ではないかもしれない。食洗機のようなかたちでいいのかもしれません。すぐに解決したい問題が何であるのかを、よく考えるべきです。

アビール: 人間側が、どんなことを妥協してもいいと考えているのかは明確にする必要があるでしょうね。また、ロボット業界にはまだ大成功を収めた起業家がいません。大当たりして大金を儲けるような起業家が出てきたら、状況はがらりと変わってくるかもしれません。

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