『ロボビジネス2013』会議レポート<その1> ロボット起業したい?

先週10月23〜25日に、シリコンバレーのサンタ・クララで『ロボビジネス2013』会議が開かれた(EHパブリッシング主催)。同会議は今年で10回目を迎えた。

今回の会議は、初日のワークショップとその後2日間のセッションで構成されており、後者は事業開発、新市場と応用、実現技術、設計と開発の各テーマに分かれていた。その様子を数回に分けてお伝えしよう。

初日の「キックスタート・ワークショップ」は、ロボット企業の起業ワークショップである。どのようにロボットのアイデアを売れるビジネスにするのかを、経験者、ベンチャーキャピタル、そして最近増えているハードウェア起業のためのサポート会社、マーケティング関係者が話し合った。

左より、パワーズ氏(NREC)、カン氏(ダブル・ロボティクス社)、リノード氏(ロモーティブ社)

『ともかく最初は、いいロボットを作ること』のセッション。左より、パワーズ氏(NREC)、カン氏(ダブル・ロボティクス社)、リノード氏(ロモーティブ社)

ロボット関係者は、ロボット市場の現状をよく「メインフレーム・コンピュータからパソコンへの移行期」にたとえる。つまり、ロボットの開発コストが安価になったことで、大規模な設備投資なしにロボットが作れるようになった。これまではロボットと言えば手の届かなかった夢だが、コストが安くなったことで、人々が使えるロボットを作って世に出そうという動きが活性化している。その様子はちょうど方々でパソコンが開発され始めた状況に似ているというのだ。

ワークショップの最初のセッション『ともかく最初はいいロボットを作ること(First Thing’s First:  Building a Better Robot)』は、ロボット会社を起業した4人とカーネギーメロン大学の全米ロボティクス・エンジニアリング・センター(NREC)のメンバーが参加した。

テーマのひとつになったのは、ロボット作りで苦労したこと。

ロモーティブ社創設者のケラー・リノード氏は、iPhoneが利用できる小型リモートプレゼンス・ロボット「ロモ」を普通の人に問題なく使ってもらえるようになるまで大変な思いをしたと語った。「自分たちにはどんなロボットがいいということに直観やそれなりの意見があった。しかし、実際のユーザーが使ってみると想像もしなかったことがたくさん出てきた。バージョン1から3まで数1000個を出荷したが、その都度ユーザーから苦情が出た」と語る。電源のスイッチすらわかってもらえず、後のバージョンでは電源を取り外してしまったほどだという。

妥協したこともある

デザインの重要性も話題になった。NREC上級ロボティクス・スペシャリストのマシュー・パワーズ氏は、「形態と機能の境界線はあいまいになっている。ことにインタラクションが絡んでくると、デザイン自体が製品の機能を表現する」と強調する。

ダブル・ロボティクス社の共同創設者、デビッド・カン氏は、社内でもデザインの重要性を共有するのは簡単でないと語る。「かなり最初からデザインを統合しないとうまくいかないと分かっているが、それをエンジニアにちゃんと理解してもらうのは簡単でない。けれども仕事をやり出すと納得してもらえる」。

左より、ラム氏(スウィヴル社)、ワイズ氏(アンバウンデッド・ロボティクス社)。司会は『IEEEスペクトラム』のイヴァン・アッカーマン氏

左より、ラム氏(スウィヴル社)、ワイズ氏(アンバウンデッド・ロボティクス社)。司会は『IEEEスペクトラム』のイヴァン・アッカーマン氏

ともかくロボットを世に出すために、トレードオフ(妥協)も必要だった。

ウィロー・ガレージの最後のスピンオフで、先頃新しいロボットUBR-1を発表したアンバウンデッド・ロボッティクス社CEOのメロニー・ワイズ氏は、「人間は見下げられるのが嫌なので、大きなロボットは敬遠される。だから、UBR-1の開発ではともかく小さく、小さくとエンジニアに伝え続けた。その代わり、軽いものしか持ち上げられないロボットになった」と言う。

ロモーティブ社のリノード氏は、次のように語った。「20人社員がいる中で、エンジニアは15人。ほとんど大学研究室の出身者だ。彼らはそもそもトレードオフが嫌いだし、あのアップルだって妥協していないと思っていた。けれども、本当のところはアップルもいつも妥協している。われわれの場合は、原価で1ドル高くなるようなことをすると売価では5ドル増しになることがわかってから、“最も単純プラン”から“最も精力的プラン”まである中から最単純なものを選ばざるを得なくなった。それでもさまざまな条件を満足させるのに必死だった」。一般消費者向け製品として、手頃な値段でロボット製品を作ることの苦労が伺われる。

スウィヴル社共同創設者のブライアン・ラム氏は、「どんなフィーチャーをつけても、万人を一様に満足させることは無理」と、人々がロボットに対してそれぞれ固有の期待を抱いていることを語る。「時間に見切りをつけること自体が妥協」と言うのは、ダブル・ロボティクス社のカン氏だ。「時間があれば何でもできる。大学ではそのアプローチでもいいが、会社となるとそうはできない」。

もうひとつ面白かった話題は、起業家が考えているロボットと市場とのズレだ。「ロボット」と言うと、SF小説などを読んでロボットに馴染んできた人々の期待があまりに高く、できないことにがっかりしてしまうのだという。

ロモーティブ社のリノード氏は、「ロボットと表現せずに、何ができるのかを説明することが大切。“期待を低く持たせて実際はそれ以上だった”と感じてもらうアプローチが最良」という。SF小説はそれと逆のことをやってきたからだ。反対に「ロボットということばは使いたくないが、そう言った方がメディアの反応がいいことは確か」と言うのは、ダブル・ロボティクスのカン氏だ。ロボットへの注目度の高さと過剰な期待のギャップは、ロボット起業家が注意すべき点だということだろう。

アンバウンデッド・ロボッティクス社のワイズ氏は、「アームがあるだけで誤解させてしまう」と言う。「ユーザーはハグしたい、会話したいと思うのに、ロボットがそれに応えないとがっかりする。けれども、そんなギャップを埋めるためにできることはたくさんある」と続けた。

まずは,ユーザーと市場をよく知ること

ユーザーをよく知ることも重要だ。実は「ユーザー」や「マーケット」は、3日間の会議を通して繰り返し出てきたポイントだった。ロボット開発者はとかく手にしたテクノロジーを元にいきなり製品化に進もうとするが、その前にユーザーや市場をじっくりと検討しなければならないということだ。「アイデア→技術開発→マーケティング(ユーザーや市場の特定)→製品化」ではなくて、「アイデア→マーケティング(ユーザーや市場の特定)→技術開発→製品化」があるべき順序なのだ。

スウィヴル社のラム氏は、それをこのように説明した。「自社製品の競合は、他社製品ではない。なぜなら、今のところロボットは使わなくてはならない必需品ではないからだ。何を基準に製品作りをするかと言うと、ユーザーの反応以外にはない」。

NRECのパワーズ氏は、「どのロボットにも、それなりのユーザーがいる。そうしたユーザーの視点に立つことが重要。製品作りの際には、ユーザーのリサーチやユーザーに合ったエクスペリエンス・デザインをやることによって、リスクを下げられる」と説明する。

ユーザー・リサーチは、「ユーザーに来てもらって、使ってもらった反応をよく観察することが大切」(アンバウンデッド・ロボティクス社のワイズ氏)だが、そうした際にプロトタイプを「単なるコンセプトの表現としてではなく、コミュニケーション・ツールとして捉えることが重要」(NRECのパワーズ氏)だという。そうすることで、ユーザーの反応を見ながら、プロトタイプを改良していくことができるわけだ。

すでにアメリカでは、ロボット起業家のためにアイデアを製品化するまでのプロセスを支援するインフラもできつつある。『プロトタイプから製品へ(From Prototype to Products: Streamlined Manufacturing)』のセッションでは、最近話題になっているハードウェアのインキュベーターや製品化支援会社が登壇した。プロトタイプはできたが、そこから少量生産、大量生産までどうやってもっていくかという、見えない領域がテーマだ。

『プロトタイプから製品へ』のセッション。左から、ミラー氏(ドラゴン・イノベーション社)、アインスタイン氏(ボルト社)、フォーレスト氏(ハイウェイ・ワン社)、ピンクストン氏(プレソーラ社)

『プロトタイプから製品へ』のセッション。左から、ミラー氏(ドラゴン・イノベーション社)、アインスタイン氏(ボルト社)、フォーレスト氏(ハイウェイ・ワン社)、ピンクストン氏(プレソーラ社)

プロトタイプや10個などごく少量の生産を自分たちでやる起業家は多いらしい。「自分でやらないと学習できない」とハイウェイ・ワン社のブレイディー・フォーレスト氏は言う。だが反対の見方もあって、生産を自分たちでやって破産した例もあれば、その時間はマーケティングなど別の目的に使った方がいいという意見もあった。

インキュベーターや、ハードウェア起業の支援会社を利用するのは、そうしたことを経験済みの人材がおり、その他のIPの保護、製造に関するコスト計算、製造手順などに関する知識が揃っていて、すべてを1カ所で行うことができるからだ。ここに登壇した会社はそれぞれロット数や支援内容に違いがあるが、経験のない起業家に対して順を追って指標を示すことがビジネスだ。こうしたサービスは料金制のこともあれば、スタートアップの所有権(未公開株)の一部を受けとるという方法もある。

クラウド・ファンディングの利点とリスク

資金集めの点で近頃盛んに利用されているのが、キックスターターなどのクラウド・ファンディングである。登壇した各社は、どれもクラウド・ファンディングに対しては肯定的だったが、一般に誤解されている点も指摘した。

「ベンチャーキャピタルが出さないような数10万ドル規模の少額資金を集められるし、目標額が集まれば、それは売れるという認証をもらったと同じことで、反応がわかるのでいい。しかし、製造のコストやスケジュールを理解しないままに始めると、後で資金を出した客をがっかりさせる」とドラゴン・イノベーション社CEOのスコット・ミラー氏は言う。

ボルト社共同創設者のベン・アインスタイン氏は、「クラウド・ファンディングでサポートされるのは製品であって、会社ではない。起業しようとするのならば、必ずしもいいプラットフォームではない」と分析する。また、プレソーラ社創設者のニック・ピンクストン氏は、「クラウド・ファンディングに出しても、結局は自分でマーケティングをやって盛り上げていかなければならない」と強調する。そこでうまく話題を作って、関心を持ちそうな潜在的コミュニティーに訴えることができなければダメだということである。

だが、クラウド・ファンディングがダメでもあきらめる必要はない。プレソーラ社のピンクストン氏によると、「まず50個ほど作って市場の反応を試してみることはできる。しかも最初に買う人々はアーリーアダプターなので、美しく作られている必要もない」ということだ。

だが、いずれにしても製造は本腰を入れて取りかからねばならない課題であることは間違いない。どこであっても製造を任せる予定の工場を自分の足で見に行き、部品をどこから調達するのか、部品に欠陥があったり時間通りに納品されなかったりした場合にはどうするのかなどは、自分で考えとかねばならないという。

意味のある問題を解決しているか

『資金を探る(Flirting with Funding)』のセッションは、すでにハードウェアやロボット関連企業に投資を行っているベンチャーキャピタルが登壇した。

なぜハードウェアに今注目が集まっているのか。それは、世界最大の時価総額を持つアップル社の人気のためだという。また、無料ソフトウェアが増える中で、ハードウェアがかつてのソフトウェアのようになってきたという見方もあった。さらに、コストが下がったことで投資しやすくなったこと、大量生産できればスケールの経済が働いてもっと安くなること、アイデアから製造までを小さな規模で試すことが可能になったことなども、理由として挙った。

『資金を探る』セッションで。左から、レネ・ディレスタ氏(オライリー・アルファテック・ベンチャーズ社)、ズベリ氏(ラックス・キャピタル社)、コニービア氏(シャスタ・ベンチャーズ社)、マヌ・クマー氏(K9ベンチャーズ社)

『資金を探る』セッションで。左から、レネ・ディレスタ氏(オライリー・アルファテック・ベンチャーズ社)、ズベリ氏(ラックス・キャピタル社)、コニービア氏(シャスタ・ベンチャーズ社)、マヌ・クマー氏(K9ベンチャーズ社)。司会はグリシン・ロボティクス社のヴァレリー・コミサローヴァ氏

ベンチャーキャピタルが投資する対象として共通していたのは、意味のある問題を解決するような製品でなければならないということだ。また、「コモディティーのようなものではなくて、ハードウェアがプラットフォームとなって、面白いソフトウェアが使えるようになるもの」、「1回限りのハードウェアではなくて、データ取得などその先の利点があるもの」といった点もポイントだ。もちろん、チームの顔ぶれは同程度に重要だ。

クラウド・ファンディングで資金を集めた経験は必ずしも必要ではない。シャスタ・ベンチャーズ社のマネージング・ディレクター、ロブ・コニービア氏は、「典型的な投資対象は、チームが2人でプロトタイプができたという段階。クラウド・ファンディングは、関心を持つ人々がいるかを探るマーケティングとディストリビューションのためには有効」だが、必須条件ではない。同氏はまた、大量生産品を目指す場合は、クラウド・ファンディングはリスクにもなると語る。競合会社に早くから手の内を見せることになる上、発売時期を公に約束することで、動きが取れなくなる場合もあるからだ。

そして、やはりここでも出てきたのは、「クラウド・ファンディングで成立するのは製品であって、会社ではない。一方、ベンチャーキャピタルが投資するのは会社」という点だ。起業することが目的ならば、クラウド・ファンディングの使い方には意識的になる必要があるということだ。

もうひとつ興味深かったのは、ラックス・キャピタル社のビラル・ズベリ氏の「ハードウェアのスタートアップはチーム作りが難しい」という指摘。「アイデアは若者が出しても、製造には深い知識のある年配の経験者が必要。両者の間で「文化が異なる」のだそうだ。

それにしても、この起業ワークショップは大いに盛り上がった。ワークショップの最後に、スタートアップがベンチャーキャピタルの前に数分間のプレゼンテーションをする「ピッチファイアー」が開かれ、特賞をアンバウンデッド・ロボティクス社が、そして名誉賞をカクテル・ロボットのムシュー社と、電子回路を迅速にロボット製造するテンポ・オートメーション社が受賞した。

いよいよハードウェアとロボット時代がやってくるという予感のするスタートだった。

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