20台の運搬ロボットが働く、シリコンバレーの病院の様子
シリコンバレーにある町、マウンティンビューはグーグルのお膝元としても知られている。早くから町の中にグーグルがWIFIを敷設し、ちょっと近未来の都市の姿を感じさせてくれた。
そのマウンティンビューに、数々のロボットを採用しているエルカミーノ病院がある。
エルカミーノ病院は50年以上の歴史を持つ病院だ。しかし、シリコンバレーの病院らしく新しいテクノロジーの導入に余念がない。手術ロボットのダヴィンチは2台設置し、また血液検査も自動的に行えるシステムを10年以上前から使っている。それ以外にも、テレプレゼンス・ロボットのVGOが1台、そして腫瘍を画像ガイダンスによって自動的に精密に焼き切るサイバーナイフなどが利用されている。
そして、2009年に古くて使いにくくなった病院の建物を新たに改築するにあたって、導入したのがエーソン社製の運搬ロボット「タグ(TUG)」である。
タグは、今年5月時点でアメリカを中心として世界130病院に400台が導入されている。このエルカミーノ病院でも何と20台が稼働中だ。同病院の最高管理サービス担当者のケン・キング氏によると、タグによって院内の日常業務のコストが40%下がったという。
同病院のスタッフ用通路でタグに出会うのは難しいことではない。あちら側から、シーツを積んだカートを引っ張る装備したタグがやってくるかと思えば、エレベーターのすぐ傍では病理標本を検査ラボに運ぶ別のタグが、エレベーターの到着を待っている。それ以外にも、約300床ある入院患者の食事を運んだり、薬品を届けたり、ゴミを捨てにいったりするタグがいる。医療関連品を各部署に届けるのもタグだ。現在同病院のタグの構成は、運ぶものによって3種類あるという。
キング氏は、タグを導入した理由を「建物のインフラを大きく変える必要がなかったため」としている。タグは、建物平面図のCADファイルを搭載し、それに従って目的地へ向かう。センサーやレーザーを稼動させ、途中で人に会うと一時停止したり、よけたりしながら前進する。途中で廊下の扉を開けたり、エレベーターをコントロールしたりするのは、WIFIでのリレー・コントロールも採用しているようだ。
タグは定期的な自動運行をセットすることも可能だが、同病院では現在のところA地点からB地点へ運搬し、そしてまたA地点に戻るということをスタッフが逐一入力する方法を採っているという。それぞれの担当部署の近くにチャージング・ステーションが設置されていて、運搬するものが発生した際に送り出す。そのおかげで、エレベーターで何台ものタグが並んで待つということも避けられると、キング氏は説明する。
タグを導入してから最初の1年間に、エルカミーノ病院では1万200個のゴミ用カートを処分し、検査ラボのスタッフが物を取りに行ったり届けたりするのを4712回もカットし、タグは合計1万2700時間稼動して1万3300マイル(2万1400キロ)を走行したという。
キング氏は、タグへの入力は簡単で、その個々の動きをモニターすることもできるという。エーソン社のエンジニアが1週間20時間を費やして、運行状況をチェクしたり、ちょっとしたプログラムの変更を加えたりするメンテナンスに関わっているという。
エーソン社では、タグは汚れたシーツを運ぶなど人がやりたがらない仕事を請け負い、病院運営の効率化に役立つと強調している。同社の製品には、タグと組み合わせて入院患者への薬品配達をリアルタイムでチェックするシステムもある。医者が処方した瞬間から、院内の薬局が調剤し、ベッドサイトの看護婦が薬を受け取るまでの過程を確実にするために開発されたものだ。運搬ロボットには、さまざまな機能やビジネスモデルを付加することも可能だというわけだ。2002年に創業し、ピッツバーグに本社を置くエーソン社は2012年度、前年度から最大の売上の伸びを見たという。
シリコンバレーでは、入院患者もこんなロボットに驚かないかもしれないが、ここでの風景は未来の病院の姿を先取りしているはずである。