オープンソース開発は、ロボットのビジネス・モデルとしても有効か?

『ロボハブ』が専門家に意見を聞くシリーズ。今回は、ロボット・ビジネスにおいてオープンソース開発がいいモデルかどうかがテーマだ。3人の専門家の意見を要約で紹介しよう。

・ブライアン・ガーキー(OSRF創設者およびCEO)

ITの世界ではプログラム言語やリナックスなどでのオープンソースのツールや開発がなければ、グーグルやIBMは現在の姿になっていなかったはずだ。

ロボットにも同様のことが言える。ロボット開発では、低次元の基本技術から高次元の機能性まで、そしてその間の開発ライブラリーやツールなど、多くの共通課題がある。その部分における優位性を武器に成功したという例はまだない。成功は、そうした技術をイノベーティブに組み合わせ、応用する方法にある。基本的な問題を協力して解決することで、ディベロッパーはより確かな解決策を手にすることができ、応用レベルの開発へ時間を振り向けることができる。

ロボット業界全体にとってもそうだが、個々の企業にとってもオープンソースは有効なはずだ。ROSは、クリアーパス・ロボティクス社リシンク・ロボティクス社ユージン・ロボット社などで利用されている。ボッシュ社やトヨタ社など大企業でも研究やプロトタイプ開発に用いられている。各社とも、ソフトウェア、コンフィギュレーション・データ、オープンソース・コードのカスタム化、ハードウェアなどの部分で「自社製ソース」を隠し持っている。それが売りになるのだ。

・ロバート・モリス(元米陸軍士官、テラビオン社創設者)

この問いは、ロボット企業がメーカーであり、またオープンソースとクローズソースは二者択一であるという前提に立っているようだ。しかし、ロボット企業はサービス企業としてとらえるべきで(たとえメーカーであっても)、またオープン性はイエスかノーを選ばなければならないものではない。

わが社では、自社ロボット・システムのデータ配信システムをアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)上で構築している。そのAWSはオープン性がいかにあるべきかの好例で、プラットフォームはオープンで、その上にユーザーがウェブ・アプリケーションを自由に構築することができる。ユーザーが触れられる部分はほとんどすべてオープンにされている。AWSで再利用可能なコードやツールもオープンソースでたくさん公開されている。

しかし、すべてがオープンではない。データをクラウド上に非常に安価に保存できるサブ・サービス「グレイシャー(Glacier)」は、スピードやリダンダンシーなどについて細かな情報が発表されているものの、実際どのように作られているのかは秘密のままだ。磁気テープを利用し、マニュアル作業も多くあるものと想定されているのだが、本当のところはわからない。

つまり、アマゾンはユーザーが使いたい部分を完全にオープンにしながら、優位性を保てる部分については閉じたままだ。ロボット産業をサービスとして捉えれば、アマゾンの例は参考になる。顧客ユーザーに役立つオープン性は何か。一方で差異を強化するための方法は何か。ロボット産業では、ほとんどをオープンソースにし、自社の特異性、知的財産の差異性をうまく引き出すことは可能だ。

・フランク・トーブ(『ロボット・レポート』発行者)

これについては、昨年フランスで開かれた『イノロボ2012』会議で、ロバート・バウワー(ウィロー・ガレージの商用化エグゼクティブ・ディレクター)とコリン・アングル(アイロボット社会長)が意見を戦わせたことがあった。

アングルは、ロボットのOSやシミュレーション・システムに関する重要要素をオープンにしてしまったら、巨大な家電メーカーが市場を横取りしてしまうと考えている。彼はこう言った。「ロボットは、自動車や飛行機、ITと同様のポテンシャルを持つ産業。ここで知的財産を自由にシェアするようなことをすれば、アメリカやヨーロッパの経済発展のエンジンを他国に取られてしまう」。

一方、バウワーは、ウィロー・ガレージがROSで狙っているのは、ROSのツールやライブラリー、シミュレーション機能をオープンにすることで、ロボット開発での共通要素を共有して開発者が研究に時間を割けるようにし、自律ロボット技術の発展を助けることだとした。そして、いったん優れたアプリケーションが開発されれば、各社はそこから発明を護るためにOSやアプリケーション・ソフトを閉じることになるだろうと言う。

それに対してアングルは、ロボット産業に必要なのは成功を収めるロボット企業であって、海外の巨大家電メーカーではないと強調。ROSも十分に保護され、安定し安全でなければ、機密的な目的(軍事、宇宙、セキュリティー)や製造には使えないとした。

それ以来、この論点は別のところでも出てきている:

・ウィロー・ガレージはROSをROSと産業用のROSインダストリアルを、それぞれ別の組織に託した(OSRF とROSインダストリアル)。

・ROSインダストリアルは、少なくとも「フロント部分」でクローズなシステムの開発を可能にし、センサーへのアクセス、プログラミング,シミュレーションは簡易に行えるようにしている。

ユニバーサル・ロボッツ社リシンク・ロボティクス社など、コーロボット関連の新興企業はROSを利用し、アプリケーション・ソフトウェアをオープンにするようになっている。上記2社はROSを開発に用いる一方で、コントロール・システムは独自に開発した。リシンク・ロボティクス社のバクスター用SDKは、すでにアカデミック用に公開されており、2014年には産業用にも公開が始まる予定。

・産業ロボットのメーカーも、ソフトウェア・アップデートやシミュレーション・スイートなどROS的な機能性を提供し始めている。ABBロボティクス社は最近、同社製ロボットのシミュレーションとプログラミング用のGISインターフェイスであるロボットスタジオ(RobotStudio)を発表した。

議論が続く一方で、このように現実的なアプローチも見られるようになっている。現在最良の方法を得ようとすれば、複数ベンダーによるロボットを扱うはめになる。たとえばテスラの工場では、大きな製造システムに自分たちのソフトウェアや管理システムを統合しているが、そこにはかなりのプログラミングの才能と作業が投入されている。まるでメインフレーム時代のコンピュータを扱うように難しいこの部分が、今後簡略化されることが理想的だ。

ROSは大学の研究所で広く使われているので、卒業生その知識を身につけていることは利点だ。だが、彼らも就職先でその企業固有のソフトウェアの難解さに直面する。ロボット企業大手は、トレーニングやプログラミング方法を改良したり、オフラインでのシミュレーションを提供したりしようとしているが、その進歩は遅い。

したがって、最良の解決策は中間の部分にあるだろう。つまり、古いシステムはアップデートされねばならないが、同時に知的財産を護る必要もある。ベンダー間の組み合わせ問題は、ROSインダストリアルや、メーカーが独自に新しいスタンダードやインターフェイスを開発することで解決される必要がある。

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