消費者市場へ100%注力するアイロボット、次は家で用事をしてくれるロボット?

お掃除ロボットのルンバで知られるアイロボットは、もともと軍事用ロボットを開発・製造してきたことで知られる。その軍事ロボット部門は今年2月プライベート・エクイティー会社のアーリングトン・キャピタル・パートナーズに売却し、ビジネス市場と消費者市場向け開発を続けるとしていた。

だが、『ザ・ロボット・レポート』によると、同社はビジネス向けロボットの開発も止めて、消費者市場に100%注力するとのことだ。

アイロボットのサイトには、またビジネス向け製品が掲載されているが。(http://www.irobot.com/)

アイロボットのサイトには、またビジネス向け製品が掲載されているが。(http://www.irobot.com/)

同記事によると、ビジネス用のテレプレゼンス・ロボット製品AVA500は予想以上に市場での展開が進まなかったようで、今後製品化は中止する。同社では、「テレプレゼンス技術に将来性があると考えてはいる」とのことだが、AVA500に投入されてきた研究開発リソースは、すでに消費者向けに転換されているとのこと。

AVAモバイル・プラットフォーム?

そして、ロボニュースは、この同じビジネス向けページの下の方に興味深いコーナーがあるのを見つけた。それは自走モバイル・プラットフォームで、AVAで開発されたモバイル技術を外部の企業や開発者に使ってもらおうというもの。中でも「これらはあくまでもコンセプト・イメージです」と断りの入った一連のロボットのイメージに目が引きつけられる。

サードパーティーがこのような開発もできます、という例。(http://www.irobot.com/より)

サードパーティーがこのような開発もできます、という例。(http://www.irobot.com/より)

このコーナーでは、AVAのモバイル・プラットフォームを利用すると、ケア用ロボット、警備用ロボット、店員ロボット、倉庫ロボットなどが可能になるとアピールしている。要は、自社ではビジネス用ロボットはもう開発しないが、自走モバイル技術を利用して他社にいろいろなロボットを作ってもらいたいということである。賢いビジネス・モデルと言えないだろうか。下の写真は、具体的な利用例だ。

自走技術は現在各社の競争の舞台になっており、早くも汎用技術化している。だがそれでも、この開発でアイロボットほど先んじているところはないだろう。そのプラットフォームを利用して、興味深い利用方法が出てくるかもしれない。

家庭用ロボットでも野望

その一方で、アイロボットは家庭用ロボットについてもいろいろな野望を抱いている。たとえば、『日刊工業新聞』で同社CEOのコリン・アングル氏が語っている「執事ロボット」構想。2021年までに商品化するとのことで、ルンバを含めた家の中のIoTを調整したり、警備をしたりできるロボットだ。自然言語でやりとりし、自立走行する。

これには少し前からすでに布石がある。アイロボットは昨秋発売したルンバ980で各種センサーやwifi機能を搭載した。後続の新製品ルンバ960でもそれは同様だ。

これは何もアプリで掃除の時間を設定したりするだけのものではない。ロボニュースがアングル氏に聞いたところでは(『日経Robotics』2016年3月号にインタビュー掲載)、ルンバはvSLAM技術を用いて家の中の空間的なマップを作成するだけでなく、ソファやテーブル、本棚、トイレといった様式的なマップも作り、そのデータを元にクラウド・ベースの「空間コンテキスト・エンジン」を構築すると語っていた。

その結果、ルンバには「玄関の掃除をして」と言えるようになり、玄関へ行ったルンバがその空間がどんな環境にあるのかも認識する。家の状態を随時モニターするようなことが可能になる。さらに家の中で用事をしてくれる執事ロボットが出てきた暁には、「リビングルームへ行って、雑誌を取ってきて」といった方法でロボットとコミュニケートできるようになるのだ。

アイロボットがコネクト・ホームへ戦略を移行させること、またそのためにルンバが集めているデータが役立つことなどは、同社が2015年11月に開催したアナリスト向けプレゼンテーション資料の中にその説明がある

このあたりのことは、同社テクノロジー担当副社長のクリス・ジョーンズ氏に『recode』が行ったインタビューのポッドキャストからも知ることができる。

アイロボットではマニピュレーションの研究開発も行っており、用事をしてくれる家庭用執事ロボットは、同社の自走モバイル・プラットフォームにカメラや、いずれマニピュレーターの付いたものになるのだろうと想像される。

コリン氏は、アイロボットのゴールは「高齢者生活支援ロボットを作ること」だと語っていた。ロボットで成功を収めた同社のような企業が、難しくとも人々の役に立つロボットに挑戦していることは、ロボット業界全体にとっての朗報であり、励みだろう。

(追記: それにしても、アイロボットはインタビューでもウェブ上でも、開発情報、製品情報、企業情報の公開に積極的だ。ロボニュースにとっては非常に勉強になるのだった。ロボット・ビジネスを目指す人にとっても同様だと思う。)

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