植毛治療で活躍するロボット。レストレーション・ロボティクス社の開発

脱毛や薄毛は、世界共通の悩みだ。だが、これまでの植毛手術は、大掛かりな上に治療の傷跡が残るなどの欠点が多く、躊躇する人々が多かった。そこに登場したのがロボットだ。 レストレーション・ロボティクス社は、世界で初めて植毛治療に利用されるロボット「アルタス(ARTAS)」を開発した。2011年に米食品医薬品局(FDA)の認可を 取得。これまで50台以上世界に出荷されたアルタスは、従来のマニュアルによる自毛植毛手術と比べて、非侵襲的に施術ができることが注目を集めている。テレビ番組でもよく取り上げられているようだ。

レストレーション・ロボティクス社CEOのジム・マックコラム氏とアルタス

レストレーション・ロボティクス社CEOのジム・マックコラム氏とアルタス

2002年に設立されたレストレーション・ロボティクス社は、シリコンバレーのサンホゼに本社を構え、2013年時点で社員数70人。その技術を見に行った(写真は2013年夏当時に撮影)。 「この作業は、ロボットでなければできませんでした」といきなり語るのは、同社CEOのジム・マックコラム氏。「従来のやり方は侵襲性が高く、痛みもひどく、スケーラブルではありませんでした。ロボットがあってこそ改良される手順だったのです」。 アルタスのしくみを語る前に、これまでの植毛手術がどんな手順で行われてきたのかを説明しよう。 植毛手術には人工毛と自毛を用いたものの2種類がある。人工毛は生来の毛根を伴わないため、そのうち抜けてくる。一方、自毛を用いるとそこから新しい毛が育ってくるので、長期的に考えれば好ましい。だが、問題はその施術の手間と痛みだった。 一般的な方法では、同じ患者の頭部を見て、まだ毛髪が健康に育っている部分から毛を採取する。それも頭皮ごと帯状に切り取るやり方だ。写真で見ただけでも痛そうである。その頭皮の帯から植毛する毛包を取り出すのだが、メスを入れて縫合された患部はしばらく痛みが残る上、化膿する危険も伴う。また、治った後も傷跡が残り、短髪のヘアスタイルはあきらめなければならないなどの制限があった。 アルタスが用いられるのは、この毛の採取部分である。 「毛包を採取するために何1000回も繰り返される作業をロボットがやるのです。これまでずっと自動化が望まれてきた部分ですが、10年前でも実現は不可能だった。しかし、今やロボットにするためのツールとノウハウが揃ったのです」(マックコラム氏)。 毛包というのは、何本か同じ箇所から生えている毛髪の束とその根元の部分のこと。アルタスは患者の頭部から植毛に使われる毛包単位を自動的に採取、それをテクニシャンが毛根を傷めないように分け、さらにそれを医師が植毛するというのが施術の手順だ。 アルタスは、メカニカルなロボットアームとカメラ、そしてソフトウェアで構成されている。ロボットアームの先には二重になった針がついており、これが頭皮をパンチして毛包単位を吸引する作業を行う。

アルタスのロボットアームの先端に付けられた二重の針

アルタスのロボットアームの先端に付けられた二重の針

どの毛包単位を取り出すのかを決めるのが、画像ガイダンス・システムである。あらかじめ採取する箇所と決めた頭皮には、テンショナーと呼ばれる四角いフレームが固定され、これが頭皮を伸ばすと共に画像ガイダンスのためのマーカーともなる。頭皮が伸ばされることによって、マッピングも精密にでき、針が正確にターゲットの毛包単位を狙うことが可能になる。テンショナーの位置と内側の頭皮の画像がレジスターされたら、ロボットの作業が開始する。 このシステムの特徴は、毛包単位の分布や密度、深さ、向きを認識して、ロボットアームが対応することだ。ひとつひとつの違いに応じて、針の角度や取り出す深度が変わるしくみだ。これによってむやみに頭皮を傷つけず、非侵襲性が確保される。 カメラは2台あって三次元で頭皮表面を捉え、次の目標はレーザー光線が2本交差して特定する。いくつごとに毛包単位を吸引するかは、あらかじめ設定する。もし患者が動いたりすると、ロボットアームはすぐに停止する。画像ガイダンス・システムは、1秒間に50回の割合で毛包単位の位置を確認しているという。

このロボットによる採取作業では、1時間に1000の植毛用の毛包を準備することも可能という。頭皮を切り取る以外の方法がなかった作業を、ロボット技術が患者にも負担のない方法で可能にしたということになる。 吸引されて頭皮表面に浮き出した毛包単位はテクニシャンが集め、植毛できる毛包に切り分ける。植毛自体は、医師が植毛ポイントや毛の向きを見定めながら手作業で行う。この部分は、今でも医師自身の感覚や技が問われる領域で、それが仕上がりに大きく影響する。 いずれにしても、従来の方法ならば7〜8時間かかっていた植毛の手術が、アルタスを利用すると半分以下に短縮される。アルタスを最初に販売した2012年の同社売上は480万ドル、2013年はその倍になるとマッコラム氏は言う。 マックコラム氏によると、2014年には施術後のモデルを画像にし、あらかじめ確認できるシステムも利用できるようになるという。また、画像ガイダンスとロボットによる施術を組み合わせたこのしくみは、他の目的にも使えると考えているというが、詳細は明らかにしてくれなかった。 アルタスの最初のアイデアを考案したのは、テキサス州の脳外科医のフィル・ギルデンバーグ氏。それまでも三次元マッピング技術を用いた画像ガイダンスを神経外科手術に用いていた。当初の構想では、吸引した毛包単位は自動的に容器に納められ、植毛手術もロボットが行うものだったようだ。マックコラム氏は、レストレーション・ロボティクス社は今後5年先までのロードマップを描いていると語るが、ひょっとすると採取から植毛まで一連の施術をロボットが行うようになるかもしれない。 マックコラム氏はロボット開発について、次のように言う。 「ロボットの要素部品は、既製品でかなりのことができるようになっています。キーは、それをどう統合するか。そして、特定の市場を見極めてマーケティングを行い、そのための優れたソフトウェアを開発することが成功を決めます」。 医療はロボットがいち早く進出している分野。特定の作業を、疲れ知らずに正確に行うロボット技術は、大いに活躍が期待される。

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